学振に2回落ちて3回目で通った話

こんにちは。就活したことない Advent Calendar 2012 - Adventarの24日分のお話をします。もう3回目なのでまたお前か、という感じですがこの後に控えたAkisatoさんの前座だと思ってお読み下さい。


さて、タイトルにあります学振というのは今回のSNACでもしばしば話題に上がっていますね。進学を迷っておられるM1の方のために補足しますと、学振というのはその名を日本学術振興会特別研究員と言う、将来有望な若手研究者にお金をやって、学術研究の発展に役立てようという素晴らしい制度です。学振には博士学生向けのDCと博士取得者向けのPDとがありますが、今回はDCの話をします。

DCにはDC1とDC2があり、DC1はD1から3年間、DC2は採用時から2年間、年額240万円の生活費支給、および毎年150万円以内の研究費申請資格(申請が通る研究費はおおよそ7割程度なので実質100万円程度)が与えられます。

DCの申請はいずれも採用の1年前(DC1ならD1開始時から採用なのでM2の春)に申請内容を大学の所属部局に届け出ることになります。申請の様式に色々書くことがありますが、主に申請の可否を決定するのは研究計画業績です。

DCの申請は一般に、学年が上がるごとに業績のウェイトが上がっていくと言われています。一般に私達の分野(情報科学)では申請時の学年数分ジャーナルが必要と言われますが、今回僕はジャーナル1+査読付き国際会議2で通ったので(筆者はD2)、必須ではないようです。


さて、表題の学振に二度落ちて三度目で通った話です。博士進学を検討する学生さんは特に事情がなければ学振を目指すことになり、僕も毎年申請書を書いては落とされていましたが、本年の申請でめでたく採択となりました。その正例と負例*1から、何が重要か自分なりに考えてみたことを列挙してみます。まずは、内容的なことから。

  • 学理を考える
    • 3年で1000万以上の額(2年なら680万)を自分とその研究に投資して頂くようお願いするので、それに見合うだけの研究計画を書く必要があります。Ph.D.に求められるものとは何か - あしたからがんばる ―椀屋本舗でもこの学理の話をしましたが、ただ「これをやります」と言うのではなく、「この研究はこういう学理に基づいてやっていて、そこからそういうモデルを立てることができて、その結果(工学的に*2)こういう前進がある」と言う必要があります。「現在までの研究状況」と、「これからの研究計画」が統一的な学理の中で、一貫した流れになると良いです。
  • 自分に投資の価値があることをアピールする
    • 3年で1000万(ry の投資の価値があるかどうかのアピールには主に下記の2つを用いるのが効果的です。
      • これまでの研究業績は、自分に研究能力があることの強い証明になります。また、「現在までの研究」と「これからの研究計画」が一貫していると、自分がその研究計画を遂行することができることが強く主張できるでしょう。
      • 参考文献を挙げ、相対的に自分の研究の必要さをアピールします。世の中の研究の流れに対する自分の立ち位置は、論文を書く際にも必要になるので、きちんと把握するのが良いでしょう。

ここからは段々と記述の上のテクニックの話になってきます。

  • 参考文献を挙げる
    • 参考文献は自分と世界の相対位置を示せる*3ので、ガンガン挙げましょう。この際、身内論文ばかり挙げると一気にイマイチ感が高まるので、身内引用は程々に。
  • 文字は最低10.5pt
    • これはどこでも言われていることですが、大事なのは図中の文字も含めてこのサイズ以上にするということです。図中の文字がこのサイズ以下になる場合、周囲の余白が十分にあることや、ボールドにしてあることが必要になるでしょう。
  • 図は必要十分まで圧縮すること
    • 非常に難しいことですが、図は必要な情報を全て残しつつ、余分な情報をギリギリまで落とす必要があります。僕個人でもここまでできているプレゼン資料の図は少ないですし、学振の書類でも出来たとは言えませんが、何回も図を書きなおしてみるのが良いでしょう。ただ図を見せてその図の意図が伝わるか、他の人のコメントを貰うのも良いと思います。文章や、意味のないオブジェクトが存在する図はなくしましょう。図の1つ1つのオブジェクトについて、それが必要かどうか内省しましょう。また、色をつける場合はその色に意味を持たせましょう(青が先行研究、赤が提案手法、など)
  • 赤線は一節に一個
    • 学振申請書はカラーで出すことができます。カラフルな申請書を作っても良いのですが、かえって要点がボケてしまうので本文のハイライトは一色です(赤でなくても良いと思いますが、赤が目立つしわかりやすいでしょう)。その赤も、節を端的に表す一文に使用し、赤字さえ追えば申請書の全容が把握できるように作成するのが良いでしょう。その他、書類中のフォント、色配置、バランス等、学振に通った人の書類を最低5通は見て学習するのが良いです。
  • 業績にもハイライト
    • 特に難関会議だったり賞をもらっていたりする場合は、会議名の他に採択率・受賞率を記載すると良いです。ACLやらCOLINGやらと言われても他の分野の先生方にはわからん*4ので、特に難関会議などを持っている場合はわかりやすく採択率を書くと良いです。僕の場合だと、国際会議にSIGDialのオーラルを持っていましたが、この横に赤で(口頭発表採択率:26.5%)と書き添えました。しょぼい業績とかに対してやると逆効果なので注意しましょう*5
  • 一文一文内省する
    • 文章をばーっとかいていると文の頭と最後で内容や表現が噛み合わなくなっていることがしばしばあるので、書き上げたら一文一文内省をしましょう。また、その文が本当にその箇所に必要かということも合わせて考えましょう。私が先生に言われていることとしては、「係り受け解析、述語項構造解析をしてみて曖昧性のない文を書くこと」というのがあります。

テクニックとして思いつくのはこんなところでしょうか。あとは、学振採択者、先生に限らず、周りの色んな人に読んでもらうと良いと思います。

最後に、学振に落ちたところで博士に必要なお金を得る道はあります*6し、通ったからといってその人が素晴らしい研究をできるわけでもありません。逆に、落ちたからといって研究がだめなわけでもないです。大事なのは、自分の研究に胸を張って申請を出せること、そのために日々の研究を頑張ることではないでしょうか*7


それでは皆様、よいクリスマスを。

*1:実例を上げて話をするか考えたのですが、ちょっとそのままネットに上げることは微妙な気がしたのでここには載せません。来年度以降の申請のために参考にしたいという方がおられましたら、ここにあるメールアドレスまでお問い合わせ下さいませ

*2:我々の分野では

*3:また、自分はちゃんと世界の時流をわかった上でこの研究をやってるんだと示せる

*4:そして大抵審査をして下さるのは他の分野の先生

*5:あざといが、一番良く見える書き方を考える。30%切っていたら書き添えるとか

*6:僕は2年間は先生につけて頂いたRAと学生支援機構の奨学金で生活して学費も払っていました

*7:学振に通るようテーマを変えたり、分野を変えたりという話もありますが、僕は三回とも同じテーマで、同じ分野に対して提出しました。その結果、不採択C→不採択B→採択の順番で良くなっていきました。