学振に2回落ちて3回目で通った話

こんにちは。就活したことない Advent Calendar 2012 - Adventarの24日分のお話をします。もう3回目なのでまたお前か、という感じですがこの後に控えたAkisatoさんの前座だと思ってお読み下さい。


さて、タイトルにあります学振というのは今回のSNACでもしばしば話題に上がっていますね。進学を迷っておられるM1の方のために補足しますと、学振というのはその名を日本学術振興会特別研究員と言う、将来有望な若手研究者にお金をやって、学術研究の発展に役立てようという素晴らしい制度です。学振には博士学生向けのDCと博士取得者向けのPDとがありますが、今回はDCの話をします。

DCにはDC1とDC2があり、DC1はD1から3年間、DC2は採用時から2年間、年額240万円の生活費支給、および毎年150万円以内の研究費申請資格(申請が通る研究費はおおよそ7割程度なので実質100万円程度)が与えられます。

DCの申請はいずれも採用の1年前(DC1ならD1開始時から採用なのでM2の春)に申請内容を大学の所属部局に届け出ることになります。申請の様式に色々書くことがありますが、主に申請の可否を決定するのは研究計画業績です。

DCの申請は一般に、学年が上がるごとに業績のウェイトが上がっていくと言われています。一般に私達の分野(情報科学)では申請時の学年数分ジャーナルが必要と言われますが、今回僕はジャーナル1+査読付き国際会議2で通ったので(筆者はD2)、必須ではないようです。


さて、表題の学振に二度落ちて三度目で通った話です。博士進学を検討する学生さんは特に事情がなければ学振を目指すことになり、僕も毎年申請書を書いては落とされていましたが、本年の申請でめでたく採択となりました。その正例と負例*1から、何が重要か自分なりに考えてみたことを列挙してみます。まずは、内容的なことから。

  • 学理を考える
    • 3年で1000万以上の額(2年なら680万)を自分とその研究に投資して頂くようお願いするので、それに見合うだけの研究計画を書く必要があります。Ph.D.に求められるものとは何か - あしたからがんばる ―椀屋本舗でもこの学理の話をしましたが、ただ「これをやります」と言うのではなく、「この研究はこういう学理に基づいてやっていて、そこからそういうモデルを立てることができて、その結果(工学的に*2)こういう前進がある」と言う必要があります。「現在までの研究状況」と、「これからの研究計画」が統一的な学理の中で、一貫した流れになると良いです。
  • 自分に投資の価値があることをアピールする
    • 3年で1000万(ry の投資の価値があるかどうかのアピールには主に下記の2つを用いるのが効果的です。
      • これまでの研究業績は、自分に研究能力があることの強い証明になります。また、「現在までの研究」と「これからの研究計画」が一貫していると、自分がその研究計画を遂行することができることが強く主張できるでしょう。
      • 参考文献を挙げ、相対的に自分の研究の必要さをアピールします。世の中の研究の流れに対する自分の立ち位置は、論文を書く際にも必要になるので、きちんと把握するのが良いでしょう。

ここからは段々と記述の上のテクニックの話になってきます。

  • 参考文献を挙げる
    • 参考文献は自分と世界の相対位置を示せる*3ので、ガンガン挙げましょう。この際、身内論文ばかり挙げると一気にイマイチ感が高まるので、身内引用は程々に。
  • 文字は最低10.5pt
    • これはどこでも言われていることですが、大事なのは図中の文字も含めてこのサイズ以上にするということです。図中の文字がこのサイズ以下になる場合、周囲の余白が十分にあることや、ボールドにしてあることが必要になるでしょう。
  • 図は必要十分まで圧縮すること
    • 非常に難しいことですが、図は必要な情報を全て残しつつ、余分な情報をギリギリまで落とす必要があります。僕個人でもここまでできているプレゼン資料の図は少ないですし、学振の書類でも出来たとは言えませんが、何回も図を書きなおしてみるのが良いでしょう。ただ図を見せてその図の意図が伝わるか、他の人のコメントを貰うのも良いと思います。文章や、意味のないオブジェクトが存在する図はなくしましょう。図の1つ1つのオブジェクトについて、それが必要かどうか内省しましょう。また、色をつける場合はその色に意味を持たせましょう(青が先行研究、赤が提案手法、など)
  • 赤線は一節に一個
    • 学振申請書はカラーで出すことができます。カラフルな申請書を作っても良いのですが、かえって要点がボケてしまうので本文のハイライトは一色です(赤でなくても良いと思いますが、赤が目立つしわかりやすいでしょう)。その赤も、節を端的に表す一文に使用し、赤字さえ追えば申請書の全容が把握できるように作成するのが良いでしょう。その他、書類中のフォント、色配置、バランス等、学振に通った人の書類を最低5通は見て学習するのが良いです。
  • 業績にもハイライト
    • 特に難関会議だったり賞をもらっていたりする場合は、会議名の他に採択率・受賞率を記載すると良いです。ACLやらCOLINGやらと言われても他の分野の先生方にはわからん*4ので、特に難関会議などを持っている場合はわかりやすく採択率を書くと良いです。僕の場合だと、国際会議にSIGDialのオーラルを持っていましたが、この横に赤で(口頭発表採択率:26.5%)と書き添えました。しょぼい業績とかに対してやると逆効果なので注意しましょう*5
  • 一文一文内省する
    • 文章をばーっとかいていると文の頭と最後で内容や表現が噛み合わなくなっていることがしばしばあるので、書き上げたら一文一文内省をしましょう。また、その文が本当にその箇所に必要かということも合わせて考えましょう。私が先生に言われていることとしては、「係り受け解析、述語項構造解析をしてみて曖昧性のない文を書くこと」というのがあります。

テクニックとして思いつくのはこんなところでしょうか。あとは、学振採択者、先生に限らず、周りの色んな人に読んでもらうと良いと思います。

最後に、学振に落ちたところで博士に必要なお金を得る道はあります*6し、通ったからといってその人が素晴らしい研究をできるわけでもありません。逆に、落ちたからといって研究がだめなわけでもないです。大事なのは、自分の研究に胸を張って申請を出せること、そのために日々の研究を頑張ることではないでしょうか*7


それでは皆様、よいクリスマスを。

*1:実例を上げて話をするか考えたのですが、ちょっとそのままネットに上げることは微妙な気がしたのでここには載せません。来年度以降の申請のために参考にしたいという方がおられましたら、ここにあるメールアドレスまでお問い合わせ下さいませ

*2:我々の分野では

*3:また、自分はちゃんと世界の時流をわかった上でこの研究をやってるんだと示せる

*4:そして大抵審査をして下さるのは他の分野の先生

*5:あざといが、一番良く見える書き方を考える。30%切っていたら書き添えるとか

*6:僕は2年間は先生につけて頂いたRAと学生支援機構の奨学金で生活して学費も払っていました

*7:学振に通るようテーマを変えたり、分野を変えたりという話もありますが、僕は三回とも同じテーマで、同じ分野に対して提出しました。その結果、不採択C→不採択B→採択の順番で良くなっていきました。

J1 VISA 取得への道

これはアメリカでのインターンが決まってから、J1 VISA(交流・インターン用学生VISA)を取得するまでの顛末である。ちなみに、就活したことない Advent Calendar 2012 - Adventarの6日目。


それは2012年9月8日に届いたある一通のメールから始まった…

(本名)君

ご無沙汰しております.
下記,挑戦されるのはいかがですか.
ご参考まで.

(同専攻の大先生)


僕も前から海外にインターンに行きたかったし、実際海外インターンにも2回応募してハネられたりしてるし、何より今回はテーマがまさに僕の研究!という感じでこのメールに飛びついたわけですよ。そこからボスに調整をして、CV作ってこの企業にapplyしたのが9月19日の4:45 am 、らしい。

そしたらあれよあれよという間にメールとか電話面接とかで、インターンに決まったのが9月29日。余談だが、やっぱりインターンというのは企業側がインターン生に求めてるスキルセット(というか分野での研究経験?)があって、今回はそれにぴったりハマったというのが大きかったらしい。過去にapplyして落ちたのはやっぱりどこか自分の専門とはズレた感じの募集だったので、そこは運かなという気がする。多少ずれていても、他候補者より圧倒的に優秀とか、他に適当な候補者がいなければ採用されるので(大体インターンを雇う予算が募集前に決まっている)、とりあえず出してみるというのも悪くないようだ。行きたい人は出すべし出すべし。


それでいつから始めるかという話になって、12月のできるだけ早い時期からがいいという話で12の頭からとか言ってたんですね。でもその直前に僕は、12/8--12/14のCOLINGという会議に投稿してまして、アメリカからインドに飛ぶのは出張費の関係で難しいので、落ちてたらかっこ悪いなーとか思いながらも、12月の3週目にしてもらったわけですよ。いま思えばほんとにこれが幸いだった……

正式にOffer Letterが届いたのが10月16日。
COLINGのNotificationが届いて、Acceptされたのがわかったのが17だか18だか。この時点では、「延ばしてもらったのに落ちたとかならんでよかったー」とか思ってました。ほんとすいません。


向こうとのやり取りとか、書類集めるのが大変とかあって、VISAの申請始めたのが実質10月26日。ちなみにこの時点で必要な書類が、

  • 研修生登録書(指定の書式あり)
  • Exchange Visitor Application Form
  • 推薦保証状(指定の書式あり)
  • Letter of Reference (ボスの推薦状)
  • Statement of Motivation (志望動機:250words程度)
  • パスポートのコピー(顔写真のページ)
  • 大学(院)の英文卒業証明書
  • 英語能力を証明する書類(コピー可:ない場合は代理店による電話面接)
  • Cultural Vistas Program fee

って感じでもう心折れてました。大学の事務に卒業証明取りに行ったら、名前のスペル間違ってるし。1日で訂正してくれたけど。最近うちの大学の事務さん優しい。

今回、Cultural Vistas | Experience the Global Workplace | Intern + Work Abroadという代理店を指定されて利用したけど、謎なのが日本人はアメリカJ-1ビザ申請 JIPT 一般社団法人 日本国際実務研修協会 というのを通してCVとやり取りをしないといけないという縛り。やっぱり日本人の語学力的な問題で、こういう組織を間に作ってっていう感じになってしまうんだろうか。結果的には、このJIPTの人にはすごくお世話になったけど(主に必要書類のチェックで)。


で、受け入れ企業の事務の人と連絡取りながら手続きを進めるんだけど、これが全然進まないんだ。何言ってるかよくわかんないこともしばしば(これは半分僕も悪いが)。

最終的に1週間くらいすったもんだした挙句、更に1週間、こちらは書類を出してるのに向こうから書類が出ないみたいな時期が続く。最終的には向こうのプロジェクトマネージャーに泣きついて、なんとかして頂くことになる(PMが間に入ったら一瞬でプロセスされたので、マジでなんだったんだという感はある)。


で、ようやくCVの書類処理が始まった時点で11月15日。案内とか見ると、CVの処理に10営業日(特急料金+=$1250)、出来た書類の回覧に1週間、面接まで1週間、ビザ発行まで1週間とか書いてあるわけ。この時点から僕がCOLINGに旅立つまで3週間。もうだめだ、とほんとに思ったわけ。しかも11月22日からはThanksgiving休暇だし、僕は有効期限内の英語能力証明を持っていなかったから電話面接をしないといけないし。

ところが、ここでCVが神対応を見せてくれる。なんと処理を更に短縮し、19日に電話面接をすると、20日には書類の回覧、返信すると21日には書類の発行、日本への発送(FedEx)という超速対応。一連の処理をしてくれたお兄さん(電話からの推測)が、実にナイスガイだった。こっちが直接英文メールしても大丈夫となった瞬間JIPTと並列に回覧回したりとかしてくれるし(後々聞くと、これは受け入れ企業の事務の人の機転っぽい。お陰で2営業日短縮できた)。


書類(DS-2019)が発行された時点で領事館(東京なら大使館)での面接予約が可能になる。僕は22日はNL研で発表があったけど、その合間をぬって面接費用の支払をし、電子申請(DS-160)をした。ちなみに、NL研は質疑で大炎上した。


そうして面接予約をするんだけど、これが12月10日くらいまで埋まってて全く取れない。僕はCOLINGに行くのにパスポートを12月7日には持っていないといけないので、11月29日には面接を終えて、VISAが添付されたパスポートを受け取る必要がある。

ただ、面接は結構先までいっぱいだというのと、面接予約ページをリロードしながら待ってたら空席が出た時点でその日程が予約可能になるってのは知ってたので、あんまり心配せずにカチカチやってたんですよ。23日から。そうしてるとある瞬間

このページを閲覧する上限数を越えました。この回数は明日以降にリセットされます。

みたいなメッセージが出る。もうね、えっ!?て感じですよ。なんと、面接予約ページの閲覧回数に上限が出来たらしいですよ。つい最近。僕がBANされた感覚では、1日30リロードくらいという感じです。


それでさすがにやべーなーとか思いつつ、30分に1回だけリロードするというのを毎日やっていると、25日の夜遅くになってようやく

  • 29日9:30

の面接予約を取ることが出来た。これも本当に一瞬の隙だったので、自分より早くクリックしてくる人がいないか手が震えながら予約した。ちなみに29日というのは、COLING行く前にビザが取れるほんとギリギリ(公称1週間なので。実際には3日で届いたけど)。

面接に持参しなければならない書類というのが、

  • パスポート
  • DS-160(電子申請を行うとその確認が出るので、確認のページを印刷したもの)
  • 写真(5cm×5cm)
  • DS-2019 (アメリカから郵送されてくる)
  • DS-7002 (研修計画。これはコピーでも可)
  • SEVISの領収書 (代理店が手続きしてくれた。大学とかに留学する場合は、大学にSEVISを登録してもらって自分で払うらしい)
  • Letter of Guarantee (滞在費の証明。インターンの場合は先方が滞在費を持ってくれることが多いので、先方に出してもらう。こちらが滞在費を出す場合は、滞在中に必要となるお金が入った口座の残高証明を出す必要があるらしい)
  • 成績証明 (過去3年分)
  • 面接予約書 (予約時に出てきた確認ページ)


って、これもまた心が折れそう。DS-2019やDS-7002のコピー、SEVISの領収書はJIPTから転送されてきて、27日の深夜に受け取る。

最後の敵はLetter of Guarantee。11月の半ばからくれっていってるのに、受け入れ企業の事務が出してくれない。今度は受け入れチームのリーダーに泣きつくと、27日深夜にようやく出してくれたと思ったのもつかの間、サインがない(サインがない書類は無効)。こちらの28日朝方(向こうの深夜)に気付いて、うおおおおおおってなりながらチームリーダーにメールをすると、直接サインしたPDFをくれた。マジで感謝。もう感謝してもし切れない。


そんな感じで面接前日にようやく書類を揃え、領事館面接へ。

領事館面接自体はそんなに大したことなく、ガラス越しに領事からの質問を3つ4つ答えるだけ(もっと大学の面接みたいなの予想してた)。英語だけど、領事の方も慣れているのでとても聞き取りやすい英語で話してくれる。ちなみに、ビザの種類によって、面接の言語は変わるようだ(J1は語学力がある程度あることを前提にしているので、英語)。

領事館の警備は物々しいが、基本的に皆さん親切なので安心して行くと良い。電子機器は持ち込み禁止で、携帯等も全て入り口で預けることになる。


そんなこんなで、ようやくVISAが手元に届きました(12月2日)。まとめとしては、

  • 米国の事務はゆったりしているので、時間に余裕を持とう
  • 書類を揃えてから、最短で1ヶ月はかかると思っておいた方が良い。自分が書類を揃えるのにも推薦状をボスにお願いしたりと時間がかかるので、余裕を持つこと。
  • CVの人やら受け入れ企業の人やらがウルトラCを連発しまくってくれたので3週間でなんとかなったが、普通なら多分無理だった。何か1つミスっても無理という状況は心臓に悪いので、2ヶ月は余裕を持った方が良い。
  • 協力して頂いた全ての人に感謝。ジャンピング土下座で感謝。


という感じでした。これ、取れなかったら本当に笑い話で済まないですよね。CVの申請に2300$(特急料金が$1250なので、普通の人は$1000くらい?)とかかかってるし、JIPTもなんか10万くらい取られたし。どちらも仕事は、高いなりのクオリティではあったけど。

こんなクソみたいな記事ですが、これから米国にインターンシップに行く事になる学生さんの助けになれば幸いです。特にCS系の博士の学生さんは、行きたいと思ってれば行ける機会が1度は回ってくると思うし。

進学か、就職か

皆様こんばんは。就活したことない Advent Calendar 2012 - Adventarの第一弾を担当することになりましたcaesar_wanya、通称椀屋です。今回はこの「就活したことないリスト」の名前にもなっているように、進学するか、就職するかということについて書いてみたいと思います。


博士課程に進学するかということは、修士で研究生活がそこそこうまくいっている人は一度は考えることになると思います。将来研究を続けたければいずれPh.D.を取ることになるでしょうし、博士課程3年間で思うように研究をするということは、研究というものが何かわかってきた学生にとっては、非常に魅力的に映るのです。あと、博士って響きがかっこいいじゃないですか。


博士課程に進学するか就職するか、一体どちらが良いのでしょうか?
結論から言えば、答えは当人の価値観による、としか言いようがないと思うのですが。


就活したことないAdvent Calendarの記事としてはアレですが、僕はM1からM2にかけて就活はしましたし、内定も頂きました。その上で博士に行く事を選択した者の意見として読んで頂けると良いと思います。あと、筆者の分野はコンピュータサイエンスですので、その点についても差し引いて下さい。工学部ならそれなりに一般化できる内容かもしれませんが、その他の学部の博士課程についてはまた異なった事情があるでしょう。


まず、僕は進学か就職かを選択する際に、進学、就職それぞれのメリット・デメリットを考えるということをせずに、進学候補(今の研究室)と就活先(僕の場合は3つ)を並べ、その中で何が一番良いかということを考えるということをしました。3社は2社が企業研究所、1社がエンジニア採用でした。

まず、エンジニア採用の会社が最初になくなりました。採用面接で落ちたわけですが、エンジニアの方と実際に面接で話をして、自分がやりたいことと異なるというのがわかったのは大きいと思います。逆に、自分に思いがけない適性がある場合もありますので、進路の候補を絞っている人(特に博士や研究職に絞っている人)も他の業種を受けてみるというのはお勧めします。

次に、企業研究所1社が不採用になりました。ここにはインターンに行っていたこともあって、候補4つの中では実は一番志望度が高かったのですが、人事面接で落ちました。まあ、会社のカラーに合っていなかったのと、他に優秀な人がいたんだろうと思います。

もう一社の企業研究所からは内定を頂きました。ここで最後に残った選択肢として、この会社に就職するか進学するかというのが残ったわけです。


そもそも、僕は修士に入る段階で大学・研究室を変えています。これにはいくつか要員があって、

  • 前の研究室でやっていたことは前の研究室のメインストリームではなかった。
  • 今の研究がしたく、今のボスが第一人者だった。
  • 前のボスが退官間近で、博士まで行くと期間が足りなかった。

というのがあります。つまり、博士に進学する可能性を前提として置きつつ研究室を変更しているわけです。今のボスにも博士進学の可能性を伝えつつ、就活をしていました。DC1も書いて出しています(落ちましたが)。

ここでそれなりに長い時間悩みましたが、最終的に進学を決意したトリガーとなったのは、4月の国際会議論文投稿に挑戦し、ボスの指導を受けつつ一応投稿まで漕ぎ着けたことだと思います(これも落ちましたが)。論文を書くために頑張っている中で自分のやりたかったことに近づいているという感覚が得られましたし、ボスの指導で自分の能力が日々伸びていることを実感した期間でもありました。

それと同時に、こうしたやりたいことをやっている感覚と、この成長が企業で得られるかということが急に不安になりました。今思えば、企業に入ったとしてもそれはそれで得られるものがあったはずなのですが、博士課程で得られる3年の伸びしろと、企業で得られる3年の伸びしろは、博士課程の方が大きいに違いないと思ったのが、一番の理由です。


こうした僕の経験から、今から進学か就職を迷っている学生さんにアドバイスできることとしては(そういえばまさに今日から就活解禁ですね)、

  • 企業インターンには(できれば1ヶ月以上の長期)行った方が良い
  • 就活は、博士が第一志望でも何社かは受けることを勧める
  • 進学前に国際会議(誰でも通るものではなく、それなりに採択率の低いもの)には挑戦した方が良い

という3点でしょうか。

個人個人で一番大切にしたい価値観は異なりますし、環境によってその価値観が充足されるか確認するためには、実際にその環境を体験することが重要だと思います。大学にいて企業のことはわかりませんし、それを知るための場として、インターンや就職活動は重要でしょう。また、博士を取得する上で、国際会議というのはやはり避けられないものですから、その体験を(最低査読まででも)してみるというのも重要だと思います。


博士に進学するデメリットとしては、

  1. お金がかかる(3年の学費+生活費をどうするか)
  2. お金はたぶんあんまり稼げない(お金を稼ぎたいなら修士で就職した方が良い)
  3. 行ったからって確実に取れるとは限らない

といったところでしょうか。僕の場合、1はボスがRAを割り当てて下さったおかげで、学生支援機構の貸与と合わせて生活の目処が立ちました。2は、日本でお金を稼ぎたいと思っているなら本当に。3は、ボスの教育実績や人柄、指導と自分の能力、ボスとの相性を客観的に計ることが大切と思います。 多分多くの人が悩むのは1ですが、2、3も大事ですよ。

博士は修士と異なり、求められる努力すれば確実に取れるものではありませんし、自分にそれが取れる能力があるかを見極める必要もあります。また、自分がその指導教官の元できちんと博士を取れるかということについても、見極める必要あるでしょう。加えて、指導教員にも博士を取るに値する人物であるとアピールし、それを指導教員に認めてもらうことも重要です(博士に行きたいと言っている人が全員進学している研究室は、それはそれで不安になります)。

それらを承知した上で就職か進学かを迷っている方がおられれば、上記の僕の経験のように博士と企業を疑似体験して、どちらが自分の大切にしたい価値観を充足できるかというのを考えることをお勧めします。

ここではお金の話をあまりしませんでしたが、こうしたことを客観的に精査した上で博士に進学するのであれば、お金の問題もある程度自然に解決されていくのではないかというのが僕の意見です。

こんな記事でも、今迷っている方の一助になれば幸いです。

毎日研究室に来ることが大切

京大情報学研究科の修論生は11月〜12月に中間発表というものがあり、そこで主査・副査に向かって修論の概要・ここまでの進捗・展望などを述べることになる。そのせいか、研究室のM2も毎日早くから遅くまで研究室にいて、とても頑張っている印象を受ける(うちの学生部屋は朝晩は助教の先生しかいないということがよくあるが、ここ数週間は朝も夜も人口密度が高い)。


修士論文を書くのに思い詰めて自殺を図るとか、そういった悲しい事件も報道されたりしたけれども、今・これから修論を書く皆さんには、そんなに思いつめる必要はないと考えて欲しい(気楽すぎても駄目なのだけど、そこはバランスを取って)。


よくブラックジョークで、「院生を殺すのには『その研究の新規性はどこにあるんですか』と質問すれば良い」などと言われたりするし、実際目を皿のようにして新規性を探している修論生というのはよくいる。しかし以前書いたように、情報学研究科 学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー(学位授与基準含む)) — 京都大学には、修士の要件として「情報学及びその関連分野における新たな成果を含むか、あるいは、情報学及びその関連分野において広い視野に立った学術的内容を含んでいると判断されること。」と書いてある。ようするに、一定の努力をして、その努力が認められれば修了はできるのである*1


修士の人に一番覚えておいて欲しいのは、研究に行き詰まりを感じたときこそ毎日研究室に来たほうが良いということ。行き詰まっているときこそ研究室に行きたくなくなるし、行ってもつらいと感じてしまうことも多いのだが、それでも毎日数時間でも研究室に行った方が良い。研究室には既に修士を取った先輩も(先生も含めて)たくさんいるし、なにより同じ目標に向いている同期がいると、自然とその方向に向かっていく。ずっと家で篭っているよりもメンタルがポジティブに向きやすいし、家で研究をしようとするよりもずっと効率的である(というか、一部の超優秀な人を除いて、家で研究できると思わない方が良い)。あと、これは結構重要だと思うのだが、毎日学校で頑張っている姿を見せることは、先生方の心証も変わってくるのである。それに、学校に来なければ先生方も助けようがない。


修士の皆さんは今が一番つらいかもしれないが、この時期があって良かったと将来思えるようになってくれれば良いと思う。

*1:後者の方が難しいのでは、という議論はあるかもしれないが

サーベイ

世の中の人がどうやってサーベイをやっているのか気になっている。というのも、自分の研究分野である国際会議はフォローしている範囲だけでもICASSP, INTERSPEECH, ACL, COLING, SIGDialなど挙げられるのだが、大体は巨大な会議なので、興味のある論文をブックマークしていくと1会議あたり10--20本は余裕で見つかる。これだけで年に60--80本くらいは読んでみたい論文が出てくることになってしまう。


これに加えて、自分の研究に必要な過去の会議論文やJournalも読むことを考えると、ものすごく膨大な論文が流れてくることになるが、年に読める論文の数なんて限られてくるので、かなりキツい。結果として読む論文を厳選することになるのだが、そうするとトレンドが追い切れない気がする。結局、自分の研究にあまり関係のないところは詳しい人にちょくちょく話を聞いて追いかけていくのが良いのだろうか。みんなどういう読み方しているのかなぁ…


あと、こういう読み方をしていて気付いたことだが、しょぼい会議に出したところで誰にも読まれないというのは真理だ。そもそも会議の選定の時点で漏れてしまう。自分の研究に興味を持ってくれる人がいれば良いけど、それにしたって最低1本は有力なところに通さないと、きっかけすらないよなぁ…

Ph.D.に求められるものとは何か

今日は@yasutomo57jpさんのD論公聴会を聞きに行った。お疲れ様でした。ustもやっていて、結構見ていた人がいたようだ。

内容は固定カメラにおける背景画像推定で、背景画像推定における様々な問題について個別に色々なモデルを立てて解くような話だったのだが、質疑で松山先生が「このD論でどういう理論体系を主張しているの?」といったような質問をされていた。

情報学研究科 学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー(学位授与基準含む)) — 京都大学にも書かれているのだが、博士の要件としては

  • 情報学及びその関連分野における新たな成果とそれを包括する体系を含む、情報学及びその関連分野における高度な学術を含み、当該の研究分野の今後の発展に大きく寄与する内容を含む
  • 情報学及びその関連分野において請求者が自立して研究活動等を行い得ると認められる学術的内容を含む

のいずれかが必要となるようだ。ちなみに修士において新規性が必須ではない*1というのも初めて知った。

うちのボスもいつも「研究のストーリーをよく考えなさい」ということをよく仰っているが、博士の研究は単に問題を解いたというだけではだめで、この問題の背景にはこういった理論が流れており、それに従ってモデルを立てるとこういったモデルになり、その結果このようなモデルが解けます、というストーリーになっている必要があるのだ。つまり、問題が解ければそれで良いのではなく、問題の背後にあるものを抽象化・一般化して、明確な学理を持たなければならないのだろう。

もちろん今ある問題に対して実用的なモデルを適用して、精度が何%上がりましたというのも立派な研究ではあるのだが、Ph.D.を名乗るということはそれだけではだめで、学理を立てて、それを実証できるということが必要なのだと思う。

今日の公聴会は非常に勉強になった。自分の研究についても、今一度どういった学理に添ってやるかということを考え直してみようと思う。

*1:修士は「情報学及びその関連分野における新たな成果を含むか、あるいは、情報学及びその関連分野において広い視野に立った学術的内容を含んでいると判断されること。」となっている

色々な人から指導を受けるのも重要

今週の頭からMLSSmlss [MLSS 2012 in Kyoto]に来ている。講義はどれも面白いものが多いし、他の分野や他の国の若手の知り合いもできるので、来てよかったと思う(どちらか、だと全国大会や国際会議でも機会があると思うが、どちらもというのは少ない)。ただ、COLINGのDeadlineと被っているので他の人とごはんに行ったりできないのが残念だが…スケジュールが本当にギリギリ。来週は他の国の人を頑張って誘ってごはんに行けると良いと思う(そういう意味ではホームアドバンテージがあるし)。


普段は主に教授から指導を受けているのだが、今回のCOLINGでは准教授から主に指導を受けつつ論文を書いている。指導を受けていて思うのは、先生ごとに指導の仕方は本当に異なるんだなということ。人によって向き不向きはあるだろうし、その人の状態によってもどういう人に指導を受けた方が良いというのは異なるので、学生のうちは出来るなら色々な人に指導を受けるのが良いと思う。


指導といえば今回のMLSSには松本先生が来られているのだが、とても何枚もCOLINGの論文指導を抱えているとは思えないくらい来られている。しかし松本研の人達の様子を見る限り指導はちゃんと受けているようで、一体何をどうやって時間を作っているのだろう、と不思議になる。NAISTまで軽く2時間くらいかかるはずなのだが…